Time Traveler 2

  1901年8月10日。パリの銀行員夫人シャルロッテ・モーバリイさんは、夏休みを利用して

 田舎から遊びに来た、いとこのエノリア・ジュールダンをいう女子大生を、ヴェルサイユ宮殿に

 案内しました。ヴェルサイユ宮殿は17世紀のルイ王朝時代に作られた豪華な宮殿です。

  内部を一通り見終わってさすがに疲れた二人は庭に出ました。

 そして生け垣の中に作られた細い道を歩いているうちに、全く別の世界に入ってしまったのでした。

 あたりを歩く人はすべて中世の服装をしていました。夢でも見ているのかと疑った時

 ”王妃さまのお出ましィ”という声が聞こえ、歴史の本で何度も見たことがある

 マリー・アントワネットが日傘をさして、たしかにこっちに向かって歩いて来るのを見たのです。

 二人は、あまりの意外さにおそれをなして夢中になって逃げ出し、数時間後、宮殿の庭の東の

 すみにある噴水のかたわらに倒れているところを、守衛に発見されました。

  その年8月31日付の、パリの一流新聞”ル・モンド”はこのことをふしぎな謎として記事に

 しました。もちろん真相は解りませんが、もしかしたら二人の女性は17世紀という過去の世界に、

 ある時間滞在したのかもしれないし、あるいは逆に、マリー・アントワネットとその周囲の

 人たちが1901年という未来の世界にあらわれたのかも知れません。

  常識では理解できないようなこんなふしぎな出来ごとが、今日にでも起こるかもしれないのです。

 しかも、あなたの、身近なところに……。


−「タイム・トラベラー」脚本 石山透 [大和書房]より−






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