≪ 赤木かん子講演会 ≫

彦根市立図書館 2000年12月10日(日)10:30−13:00


「読んで欲しい、読んであげたい、一緒に読みたい子どもの本」






 その昔、新聞で紹介された"子どもの本の探偵さん"の記事を図書館の児童書関係のスクラップブックで見つけて以来、注目していたかん子さん。次々と本を出版されて、有名になられたかん子さんに、初めてお会いしたのは、滋賀県大津市立図書館で行われた講演会でした。もう10年近く前かもしれません。用意された演台ではなく、椅子にちょこんと腰掛けて、児童文学、マンガについての想いを熱く語って下さいました。

 そして今回、何気なく新聞を見ていて発見した講演会の記事。早速電話で問い合わせると、事前申込もいらないということで、彦根市立図書館まで行ってきました。
 彦根城のお濠のすぐそばにある図書館までは、家から50分くらいという近さにもかかわらず、めったに行かないので、すっかり旅行気分。主催者のひこね児童図書研究グループの方の紹介では、かん子さんが住んでおられる福生市というのは、東京から1時間半くらいのところにあるとのことで、朝からの講演のため、ちょっと眠そうなかん子さんでした。



 会場は、図書館の会議室で、前のテーブルには、魔女、おさるのジョージ、ハリネズミ、卵から生まれた恐竜などのぬいぐるみがずらっと並べてありました。
 ぬいぐるみを持って学校に出かけると、子どもは大喜びして遊ぶのだそうです。特に中学1年生。6年生では見向きもしないのに、中学1年生というのは、そういう年頃らしく、だから、最初はひっくり返すと丸いボールにもなる縫いぐるみを持っていって思いっきり投げ合って遊ぶ。すると次に行った時は、ジョージを持って行っても投げつけられずにすむ。

 ブックトラックには、かん子さんが『子どもの本の総目録』で紹介された絵本がぎっしり詰まれていて、分厚い読み物は、魔女の背もたれ替わりになっていました。




かん子さんは、ショートヘアを鮮やかなオレンジ色(!)に染め、ジーンズとグレーのトレーナーというラフなスタイルでした。

会場の人みんなに最初に訊ねたのは、自分がどれに当てはまるか?

 1 自分が好きで自分の為に本を読む人(他人のことはどうでもいい)
 2 人のため(子どものため)に読む人 
  a アマチュア(自分の子どもにしかやらない人)
  b セミプロ(他人にちょっかいを出す、お金をもらわない人)
  c プロ(子どもに関わっている職業の人:保母さん、図書館員、小中学校、高校の先生など
    好きだろうときらいだろうと勉強する義務のある人)


aが一番多かったものの、ほぼまんべんなく手があがりました。

1の、本人が本を好きという場合は簡単。好きな本を3冊聞けば、たいてい「この本、きっと当たりますよ。」と本を差し出せる。でも、2の人は難しい。



本を人にすすめることについての心得みたいなことをいくつか。

◆ 聞かれないのに教えては行けない!面白さが半分に減るから。
 一番面白いのは、自分でその本を見つけた時。それでも、10冊読んで、1冊しか面白い本に出会わないよりは、半分の面白さでも、面白い本を読みたいという人には教える。

◆ 本と服は、人に持って行かない!友情が壊れるから。
 趣味の合わない服は、もらっても迷惑なだけ。着ていないとすぐにばれる。(笑)本も同じ。

◆ 無邪気で、善良だけれど、人を苦しめることはできる。
 本は、相手に幸福を与えるために読むもの。
自分にとって面白い本が、他人に面白いとは限らない。
子どもと大人では、面白いという感じ方が違う。だから、自分の好きな本を持っていかない。子どもの喜ぶ本を持って行く。

子どもの頃、人に本を読んでもらうのが大きらいだった。その人の解釈が間違っていたから。そんなこと、言葉でうまく言えない子どもには、ただ苦痛だった。 でも、ラジオの朗読の時間は大好きで、学校を休んで聞いた。 素人は読んじゃいけない、プロにまかせるべき作品がある。

最近の子は、本を読まない。=魅力的な本が身近にない。
落ち着いてお話をじっと聞かない。=話がへた。



◆目の不自由な友達がいる。彼女が、本当にボランティアに読んで欲しいのは、その日の肉屋の広告。裁縫箱の糸の整理。
「でも、読書ボランティアは夏目漱石を読みたがるのよね。」「ナルニアを読みたがるのよねぇ。」
本当に読んで欲しい時のために、読書ボランティアの朗読を聞くというボランティアをしている。



◆3歳児の皮膚感覚を、まれに持っている人がいる。
 たいていは、自分の子どもの成長に合わせて、その皮も大きくなる。でも、いつまでも子どもの感覚を持っている人は、奇人・変人と呼ばれる。大人になれなかった人。今の児童文学界の大御所と呼ばれる人は、たいていそう。

斉藤洋の作品には、主人公に必ず大人の人がつく。赤の他人の大人が見守り、助けてくれ、成長した後は、別れが待っている。例外なく、みんなそう。大人になれないピーターパンや、ピーターパンの作者と同じ。



◆ズッコケシリーズ ある意味、今ではもう古い。
 地域によるので、東京と彦根では同じではないけれど、4〜6年生の40人のクラスで、読めるのは、3〜4人。なぜなら、3人がいやになるほど健全だから。作者は賢いから、離婚問題なども組み入れているけれど、主人公は3人共、親や教師と信頼関係がある。



◆今、小学校の休み時間に学校に来て欲しいのは、大人の男性。
若くても、おじいちゃんでもいい。「じゃんけんして、勝ったら抱っこしてあげる。」と言うと、列ができる。抱っこしてもらって、満足して離れる子は、それでいい。 しがみついて離れない子がいる。女ではだめなんです。でも、一人で行ってはだめ。押しつぶされる。(笑)



◆『はじめてのおつかい』児童虐待本キャンペーンをしている。

 最初のページを見ただけで、「使えない女」だというのがわかる。赤と白のチェックのクロスのかかったテーブルの上に電気ポット。小さい子がいる家で、普通、こんな危険なことをしない。
 5歳の女の子をひとりでおつかいにやらせるのだから、きっと歩いて5分くらいのお店だろう。だったら、なぜ赤ちゃんを抱いて手をひいて歩いてミルクを買いに行かないんだろう。きっとめんどくさいから。子どもに、はじめて一人でおつかいをさせる時には、それなりの準備が必要で、あぶない場所は通らないように道順を考えて、いっしょに何度も歩き、これでもう大丈夫と思えるようにしてからするものだ。そしてその最初の時がいつなのかは子どもが教えてくれる。この絵本でいうなら、おつかいを頼むのはお母さんではなくて、赤ちゃんの世話で忙しそうなお母さんを見て、女の子の方から、「わたしが牛乳買ってきてあげる。」と言い出す展開にするべきだった。そして、お母さんは、すぐにお店に電話して、「今からうちの子が牛乳を買いに行きますから。」と根回しをする。

講演を聴いた後「かん子さんの話を聴いて、やっとわかりました。」と言われたことがある。「子どもが、『はじめてのおつかい』を読んで欲しいとせがむんだけれど、必ず「ぼくは、おつかいに行かないよ。」と何度も念を押す。」それなら、何で読んでほしがるのか?きっと、お化け屋敷のノリだろう。



◆『ラブ・ユー・フォーエバー』
圧倒的に50代の女性が買っていく。「子どもに捨てられたんだな。」と思う。親を捨てる子どもに成長したことを喜ぶべき。自分の本棚には決して並べないけれど、図書館員なら買う。絵本の棚ではなく、精神医学の棚に置く。

ベストセラー『失楽園』『マディソン郡の橋』
この本が受けるのを怒るのはむなしい。それで癒される人がいる。突然売れなくなると、問題が終わったんだと思う。

相手の精神状態を知らなければ、何も本は出せない。
人は、2〜3年先を示してくれる本を求める。10年先を言われるとわからない。乗り越えてしまったものは、いらない。



◆”共依存”という病気がある。別名、アル中患者の妻病。
自分をたよりにしてくれる存在がないと不安で苦しくなる病気。

お話おばさんの中にも、共依存の人がたくさんいる。
お話をするのが悪いと言っているのではない。ただ、子どもに自分の好きな本を押しつけないで。



◆『あなたが うまれたひ』福音館は、インチキ本。
アメリカでは、障害者が生まれたら、配られる本らしいが、地球や、石は歓迎してくれなくてもいい。地球や岩は、あるだけでいい。お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんが、生まれたことを喜んでくれたらいい。



◆『ちびゴリラのちびちび』これは、8ヶ月から上は上限のない本。
生まれたばかりの小さなゴリラが、みんなから愛され、大切にされて大きくなっても、みんなちびちびが大好きだという本。中学校にもこれを持って行く。プライドを傷つけないように、最初に「みんながお父さん、お母さんになったら子どもに読んであげて。」と言ってから。読むと、涙ぐむ子がたくさんいる。「なんだか孤独だけれど、どうさびしいのかわからなかった。でも自分は、こんな風に愛して欲しかったんだ。」と気づいて、こっそり借りて行く子がいる。若い母親でも、3分の2が泣いたグループがあった。 「自分もこんな風に愛されたい」と。「愛されたかった」ではなく。

◆『ガンピーさんのふなあそび』
 失敗しても、「だから言ったでしょ。」というセリフを言わない。 ついそう言ってしまうのは、言うと自分の溜飲が下りるから。

他に『くまのコールテンくん』『くまのビーディーくん』『だるまちゃんとてんぐちゃん』『イエぺはぼうしがだいすき』『おたんじょうびおめでとう』が使える。



今回の講演は、ほとんどの時間を、本の紹介ではなく、”それ以前の基礎講座”ということで、繰り返し強調されていたのは「人に自分の好きな本を押しつけるな!」という話でした。

7〜8年前から、どうも講演会参加者の中に、子どもに自分が選んだ本を読ませて、「この本面白いね」と言わせたい。子どもが選んではダメ。という人が増えてきた。だから、最近はこういう機会があると、本の紹介よりもまず、子どもに自己決定権を与えるべきだということを話すようになった。「本を選ぶセンスは、子どもの方が上」「大切なのは、子どもが好きな本を選ぶこと。」

子どもを、ぶらんこやジェットコースターに乗せるのは、それが楽しかったことを覚えているから。大人になって、ブランコに酔い、遊園地で身体を揺らされるのが苦痛になっても、子どもは楽しいんだということを経験上知っている。本も、自分が楽しまなくてもいい。子どもが楽しめる本がいい。

赤ちゃんをガラガラであやすのは、何もガラガラを振るのが楽しいからじゃない。ガラガラを見て、赤ちゃんが喜ぶのがうれしいから振る。

客(子ども)をどう操り、どう乗せるか。本は素材にすぎない。

本当は2時間の予定が、2時間半を越える熱弁でした。





【講演後...】

 最近、小学校の図書室から変えていかなければいけないことに気づいたかん子さんは、学校図書館の改造に乗り出されたようです。 講演の中でも、「本の総入れ替えが必要。特に自然科学系の棚。」と学校図書館の蔵書が古くて役にたたないことを力説されていましたが、本はもとより、古い書架を取り払ったり、わかりやすい表示を工夫したり、図書室自体の大改造に次々と取り組んでおられます。実際にかん子さんが手を貸された小学校の図書室の改造前と後の写真が2冊のポケットアルバムに収められていたのを見せてもらいました。図書館改造については、書店では手に入らない小冊子「錨といるか」の最新号や、「YA」の即売会もあり、大盛況の様子でした。





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