ジャワガムランコンサート
楽舞劇『桃太郎』第3場、第4場 プログラム

2004年9月11日日曜日 第1部14:00- 第2部17:00-



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(2004年9月11日に碧水ホールで開催された「ジャワガムランコンサート 楽舞劇『桃太郎』第3場、第4場」のパンフレットからhtml 版です。)





     






■ 桃太郎によせて 中川真
■ニニ・トウォッ 佐久間新
■『桃太郎』第2場「成長」台本


2004年9月11日土曜日
碧水ホール, 滋賀県水口町

水口町は2004年10月から甲賀市(こうかし)になります。




■プログラム


第1部 ジャワの古典音楽と舞踊

1.グンディン ボナン ソマントロ
Gendhing Bonang Somantara kethuk 4 awis minggah 8, laras slendro pathet nem
2.グンディン イモ・イモ 〜ラドラン キジン・ミリン 〜クタワン イモ・イモ
Gendhing Ima-ima kethuk 4 kerep minggah Ladrang Kijing miring
   kalajengaken Ketawang Ima-ima, laras pelog pathet nem
3.舞踊 クロノ アルス ジュンクン・マルデヨ
Kelana Alus Jungkung Mardeya
(音楽:Ladrang Cangklek, laras slendro pathet manuyra)
4.舞踊 ガンビョン パレアノム
Gambyong Pareanom
(音楽:Gendhing Gambirsawit Pancarana, laras pelog pathet nem)



第2部 楽舞劇『桃太郎』(音楽監修:野村誠)


1.トーク:野村誠 x 中川真
2.第3場「旅立ち」
3.第4場「鬼ヶ島」




桃太郎に寄せて
中川真





 今年の2月頃から、マルガサリは即興演奏の練習をかなり本格的にやっている。それは、『桃太郎』の制作をにらんでのことではなく、それぞれ個人としての音楽的能力のアップをはかろうとの意図から始めたのであった。桃太郎の練習が本格化する6月以前、ふだんのマルガサリはジャワの伝統的な古典曲や舞踊を練習する。もちろん、そこでも各自の音楽性は発揮されるが、ジャワ音楽との相性の善し悪しに左右される。なかにはジャワ音楽とのマッチングには苦労するけれど、ユニークな音楽性をもっている人もいる。そういった人の能力を開発したり、より自発的な音楽行為のなかから各自の特性を浮かび上がらせるために、即興演奏の練習が導入された。ジャワ音楽的な能力だけではなく、眠れる音楽性を掘り起こすのも大切なことだ。
 だからといって、即興演奏はすぐにできるものではない。本当はすぐにできるのだが、何しろやったことがないから尻込みをする。そういう、精神的な壁を乗り越える必要がある。そもそも『桃太郎』の制作を始めるときも、なんで演技なんかせなあかんの、という反発がけっこうあった。しかし、『桃太郎』をやり続けていくうちに、それが常態となっていった。即興演奏の場合も同様だ。たまたま、今回に賛助出演をしてもらうきょんちゃんとチヒロ君がスタジオに遊びに来て、彼女たちの芸(ポイとデジュリドゥ)とガムランとで何かやれないだろうかということになり、じゃとりあえず即興をやりましょうということになったのも、いいきっかけとなった。

 ところがこれが、少なくともぼくには、異常ともいえるほど面白い経験となった。初めに、きょんちゃんたちと一緒にやったのがよかったのかもしれない。なにしろ目の前に動きがあるのだから、楽譜やインストラクションがぶらさがっているようなものだ。その動きに従いながら、またときには追い越しながら音をつくってゆく。仮にガムラン奏者だけで始めていたら、




お互い顔を見合わせて陰気なものになったかもしれない。とにかく、それから何度も彼女らに来てもらい、またマルガサリの佐久間新も即興ダンスで加わりながら、無目的な即興演奏に浸るようになった。ある程度そういう日々を過ごした後、スペース天での定例コンサート「天の音」(5月初旬)で発表しようではないかということとなった。その企画がふくらみ、「天の音」は昼(ジャワの古典音楽・舞踊)と夜(コラボレーション)の2部構成となり、盛り沢山となった第2部は午前3時頃に終演となったのだ。
 盛り沢山となったのは、マルガサリをいくつかのユニットに細分化し、それぞれのユニットが独自の即興やオリジナル作品を作ったからだ。結果としてはマルガサリ・メンバーのかかわるユニットが5つ以上出現し、かなり変化に富んだ演奏が出現した。もちろん、精密さや洗練度において凸凹はあったけれど。
 ガムランといえば、非常に様式性の高い音楽だが、実はこんなに自由な可能性があることを知った、というのが大きな発見であった。ぼくはこれまでに多くの作曲家に委嘱してガムランの新曲を演奏してきたけれど、そういうのとも違ったのだ。自分たちで構成などを考えるから、音楽がもっと身近な感じになる。ひとことでいえば「自分の音楽」といえるだろうか。もちろん、そういうのを人前で演奏する気恥ずかしさは残るけれど、メンバーは重要な一歩を踏み出した。

 しかも、カミさまが与えてくれたチャンスだろうか。5月から奈良市の「たんぽぽの家」のメンバーと、コラボレーションを始めることになったのだ。たんぽぽの家では、身体的あるいは知的障害をもつ人が様々なアート活動をおこなっている。その新しいセンターが5月にオープンするので、マルガサリに演奏依頼がきた。ぼくは、ただマルガサリがお祝いのために演奏するだけでは面白くないと思い、障害をもつ人々と短時間でもいいからコラボレーションをしたいと申し出て、それが実現した。
 大当たりであった。なんと刺激的であったか。障害をもつ人々とのコラボレーションは初めてだったので、様子が分からなく、とにかく「キメゴト」があまりない方がいいだろうと思って、即興演奏で練習を始めたところ、それに合わせて踊る彼/彼女たちのダンスはとても魅力的であった。定型にはまったダンスではないけれど、
そうとしか動けないだろうなと思わせるほど、必然的で完成度の高いものだったのだ。全く訓練を受けていない彼/彼女たちが、なぜこんなに踊れるのか? 
 たんぽぽの家のメンバーが高感度であったわけだが、もう少しぼくたちに引き寄せて考えると、ジャワ音楽あるいはジャワ楽器のもつ可能性もあなどれないのではないか。つまり、ガムラン楽器のもつ余韻の長さ、あるいは複雑なリズムの可能性が、彼/彼女たちの身体能力とフィットしたと思うのだ。大きな鉱脈を発見したと確信して、それからというもの、ぼくたちはリハーサルをほぼ毎月のように繰り返している。何が生まれるかは分からないけれど、即興という方法が、マルガサリとたんぽぽの家をつなげていることは確かだ。

 即興演奏だから、うまくいくときも、あるいはどうしようもなくひどいときもある。しかし、ぼくは思う。ジャワの古典音楽も、実はこのようにしてできあがってきたのではないかと。ぼくたちの前にあるジャワの音楽はほぼ完成された姿だ。実に多くのルールや定型がある。しかし、初めはそんなものではなかったはずだ。もちろん、いまマルガサリがやっているような、毎回姿が大きく変わるような即興ではないにしろ、ゆっくりと時間をかけて色々な人の即興的ともいえる思いつきが集積し、いまの形になっていったのだろう。そんなことを実感する。
 以上のような状況を野村誠氏は見抜いて、第4場の練習を始めた。これまでも野村さんとのセッションは即興的であったが、それがいっそう強まっている。今回もジャワの音楽家が参加しているが、彼らがどのように感じているのか、コンサートが終わってから聴いてみたいと思っている。

Nini Thowok
ニニ・トウォッ


 佐久間新さん(ジャワ舞踊)にインドネシアの子どもの遊びについて聴きました
・・・・
 人形(ニニ・トウォッ)に降霊をして占いなどをする子供の遊びです。、ジャワのアニミズムを背景が背景となっています。
 満月の夜に農村の子供などが行う遊びですが、霊的な遊びで、時に危険を伴うので、子供達は年長の若者に伴ったりして、怖々と、そして嬉々として真剣にやります。降霊に際して、"ilir-ilir" イリル・イリルという呪文を唱えます。この呪文は、転じてイリル・イリルというガムランの楽曲にもなっています。
  ・・・
 ニニ・トウォッの人形のまわりには10本くらいの縄がついていて、それをみんなが人形を立たせるように持ちます。すると、人形に魂が宿ったかのように動き出す・・。
 原理は多分、日本の「こっくりさん」という遊びと似ていますが、実はほんとうに魂が宿るのかも知れません。
 この遊びから得たモチーフが、本日初演の桃太郎「第4場」に登場します。
(答えた人:佐久間新)






Lir ilir lir ilir
tandure wis sumilir
tak ijo royo royo
tak sengguh penganten anyar
cah angon cah angon
penekna blimbing kuwi
lunyu lunyu peneken
kanggo masuh dodod ira
dodod ira dodod ira
kumitir bedhah ing pinggir
domana jlumatana
kanggo seba mengko sore
mumpung gedhe rembulane
mumpung jembar kalagane
tak suraka surak hore
tak suraka surak hore


第1部
ジャワの古典音楽と舞踊


■演奏

家高 洋
ウィヤンタリ 
河原美佳 
佐久間新 
佐々木宏実 
四方夕香 
田渕ひかり 
東山真奈美 
中川 真 
西真奈美 
西田有里 
原田満智子 
林 稔子
日置あつし 
松宮 浩 


シスワディ・ダルモスマルト 
ローフィット・イブラヒム


■舞踊

佐久間新 
ウィヤンタリ

演奏曲と舞踊について



グンディン ボナン ソマントロ

 1曲目の「ソマントロ」は、クンダン(太鼓)以外はすべて青銅製の楽器で奏される「グンディン・ボナン」という編成の曲である。「グンディン」の意味は「楽曲」、「ボナン」は楽器の名前(コブが上に向くように置かれたゴング類の楽器)である。この楽器やサロンと呼ばれる楽器(青銅の音板を共鳴胴に並べた楽器)がこの曲の中心となっているが、これらの楽器は、ガムランの楽器の歴史の中では特に古いものである。
 「グンディン・ボナン」は、通常、コンサートの初めに演奏される。この編成の曲は静かに始まり、装飾が加わったやや派手な部分が続いた後で、テンポが上がり強奏の内に終わっていくことが多い。このような演奏の過程を経ることで、演奏者(そして聴衆)は、2曲目以降の柔らかな響きの楽器の編成の曲(「グンディン・ルバブ」と呼ばれる編成の曲)の演奏を味わう心地に導かれるのである。
 ところで、伝統的なジャワ・ガムランの曲名(ジャワ語)は、その意味が分からないことがしばしばあり、また意味が分かったとしても、その楽曲自身との関係について不明であることも多い。その結果、曲名と楽曲について様々な解釈が生じているが、ジャワの音楽家は、それぞれの解釈を尊重するだけでなく、その多様性自身を楽しんでいるようである。ここでは、本日マルガサリと共に演奏するシスワディ氏の解釈を紹介する。
 シスワディ氏によれば、「ソマントロ」の語源は、Sawe toroであり、この意味は、「十分な状態」ということである。ソマントロ(Somantara)という語は、(十分であるために)「当分の間」(だいじょうぶである)という程の意味である。いずれにしても、「十分な状態」ということがその基本的な意味なのであるが、恐らくこれは、この曲の最初の部分の長大さに対応していると考えられる。更にこの名前には、その長大な部分をどのようにして聴衆も楽しめるように演奏できるのかということに演奏者の腕の見せ所があるとも解釈できるであろう。
(家高)

グンディン イモ・イモ 〜ラドラン キジン・ミリン
〜クタワン イモ・イモ

 2曲目の「イモ・イモ」は、「グンディン・ルバブ」という編成で演奏される。「ルバブ」は、胡弓に似た楽器の名前である。また、グンデル(青銅製のヴィブラフォン)やガンバン(木琴)、そしてプシンデン(女声独唱)など1曲目の「ソマントロ」では含まれなかった楽器や歌が加わり、柔らかで優美な雰囲気が醸し出される。これが中部ジャワのガムラン音楽の特徴であるとしばしば指摘されている。
 ところで、イモ・イモの曲名と楽曲に関してもシスワディ氏の解釈を紹介しよう。この2曲目は、実は三つの曲が続けて演奏されるのであるが、その最初の曲「イモ・イモ」の「イモ」は、「小さな白い雲」という意味である(ちなみに、「イモ・イモ」というように同じ語が繰り返される場合は、複数形を示している)。シスワディ氏によれば、この「雲」ということは、「天上」を含意している。ジャワの伝説によれば、天上には、この上もない素晴らしい響きのガムランの楽器「ロコノント」が存在する。この楽器は、天上の神々のために演奏されるのであるが、この楽器が奏でている音楽のような落ち着いた美しさを「イモ・イモ」という曲は持っている、と解釈されるのである。
 この「イモ・イモ」に続いて演奏される曲は、「キジン・ミリン」という曲である。この曲名は、(がたがたしているような)「不安定さ」を意味している。これは、この曲のバルンガン(骨格となる旋律)の進行の仕方に由来すると言われている。したがって、最初の「イモ・イモ」とは対照的な性格の曲を続けることで、これら2曲の各々の特徴がより判明になるのである。また、「イモ・イモ」が「天上」の事柄を示しているとするならば、「キジン・ミリン」は「地上」の事柄を示していると解釈されるであろう。
 続けて演奏される曲は、最初の曲と同じ「イモ・イモ」という名前の曲であるが、形式が異なっており、別の曲である。「キジン・ミリン」を演奏することで一度「地上」に降りたのであるが、最後に再び「天上」に上がり、流麗に終わっていくという楽曲全体の構成になっている。
(家高)





舞踊 クロノ アルス ジュンクン・マルデヨ

クロノは、遠方にいる女性に恋い焦がれる若武者の舞踊と言われている。アルスは男性の優美な形のこと、ちなみに荒型はガガという。ジュンクン・マルデヨはマハバラタ物語の登場人物で、スリカンディという女性が恋の相手である。舞踊は、冒頭の様式的な振りの部分から次第に、生き生きとした躍動的な部分へと移行し、最終的にまた様式的な振りへと戻り、本の裏表紙をそっと閉じるように終えられる。舞踊、ガムランの楽曲とも非常にシンプルな構成となっている。ジョグジャカルタでは、舞踊を習い始めた若者によって舞われることが多いが、さりとて簡単な振り付けというわけではなく、シンプルな故に舞踊家にとっては技量が試される演目だともいえる。また、女性を欲望の象徴的対象と考えると、理性と欲との葛藤を乗り越えていく人生を描いている舞踊とも考えらる。クロノには、恋に落ちるという意味以外に、何かを探し求めて旅をするという意味もあるようである。この舞踊の見どころは、ひとつひとつの形をきれいに形取っていく点で、それはジョグジャカルタ王宮舞踊の大きな特色でもある。
(佐久間)


舞踊 ガンビョン パレアノム

ガンビョンは豊穣祈願を起源とする19世紀末の民衆舞踊から発展したといわれている。パレアノムは楽曲の名前であるが、「ガンビョン パンクル」など、他の曲を伴奏とするガンビョンがいくつもある。このガンビョンは、ソロのマンクヌガラン王宮の舞踊に取り入れられ、再構成されたものである。前のクロノ・アルスはジョクジャカルタ様式の、そしてこれはソロの様式の舞踊ということになる。庶民の舞踊としての自由闊達さ、エロティックさを感じさせる部分と、王宮舞踊としてのゆったりとした、優美な部分が巧みに構成されている。楽曲も、全体的にスピーディで変化に富んだ構成である。軽快なテンポで始まるこの舞踊は、後半で一瞬音がまばらになるあたりで、王宮様式特有のゆったりとした優美な振り付けに変わる。時間が引き延ばされたようになった後、再度楽曲は加速し、舞踊家も再び生き生きと踊りはじめる。舞踊の全体を通して、舞踊家がリズムを得て生き生きと踊る部分は、太鼓奏者はチブロン(中型の両面太鼓)を使う。両者の掛け合いが、この舞踊の見所のひとつである。
(佐久間)

第2部
楽舞劇『桃太郎』第三場、第四場


第3場「旅立ち」

 第1場「誕生」(2001)、第2場「成長」(2002)に続き、この第3場は2003年にできあがる。第1場は、川を流れてきた桃から太郎が生まれるまで、第2場は、日常生活を営む太郎と村人たちを鬼が襲い、鬼にさらわれた花子の奪還を太郎が決意するまでを描く。第3場は、太郎が鬼ヶ島へと旅立つ直前から始まる。桃太郎と3匹は、鬼ヶ島がどこにあるのかも知らずにでかける。行く先にはいくつかの邪魔や試練が待ち受けている。それをひとつずつクリアしながら、鬼ヶ島へと近づいてゆく。

■キャスト

桃太郎:魚谷尚代
犬:日置あつし
猿:西真奈美
雉:田渕ひかり
   じじ:中川 真
   ばば:原田満智子
だんごの精:四方夕香、西田有里、きょん
たまご大王:中川 真
大王従者:松田明子
     空手家:林加奈
  哲学者:家高 洋
船着き場番人:シスワディ・ダルモスマルト
ワヤン遣い手:ローフィット・イブラヒム


■演奏

家高 洋
佐々木宏実
四方夕香
東山真奈美
中川 真
西田有里
原田満智子
林 稔子
松宮 浩
シスワディ・ダルモスマルト
ローフィット・イブラヒム
手塚千尋
野村誠
林加奈




第4場「鬼ヶ島」

 鬼ヶ島に上陸した桃太郎たちは鬼を探す。果たして花子は無事なのであろうか。やがて桃太郎たちは鬼と出会い、壮絶な戦いが始まる。第3場では主にセリフが中心であったが、第4場ではセリフは一切なく、音楽と身体の所作だけによって進行する。


■キャスト


桃太郎:魚谷尚代
犬:日置あつし
    猿:西真奈美
雉:田渕ひかり
     鬼大将:佐久間新
   鬼1:ウィヤンタリ
鬼2:河原美佳
     鬼3:きょん


■演奏

家高 洋
佐々木宏実
四方夕香
東山真奈美
中川 真
西田有里
原田満智子
林 稔子
松宮 浩
シスワディ・ダルモスマルト
ローフィット・イブラヒム
手塚千尋
野村 誠
林 加奈
■制作
監修:中川 真
衣裳(第2部):水谷由美子 岡部泰民 入江幸江 永冨真子
美術(第2部):田渕ひかり 西真奈美 松田明子 坪井ゆゆ
照明:滝本二郎 
特別出演:シスワディ・ダルモスマルト 野村誠 林加奈
賛助出演:ローフィット・イブラヒム 魚谷尚代 きょん 手塚千尋
制作協力:HIROS HVS ティルト・クンチョノ
舞台設営:川島ガーデン

主催:水口町教育委員会・碧水ホール
後援:インドネシア大使館 ガルーダ・インドネシア航空 
   (有)ナルナセバ ブルーウエイ株式会社


























■プロフィール

中川真(監修)
 サウンドスケープ、サウンドアート、東南アジアの民族音楽を主な研究領域とする音楽学者。マルガサリ代表。京都音楽賞、小泉文夫音楽賞、サントリー学芸賞などを受賞。著書に『平安京 音の宇宙』(平凡社)、『小さな音風景へ』(時事通信社)など。2003年に高橋ヨーコ(写真家)とともに日常の「音」をテーマに冒険小説『サワサワ』(求龍堂)を上梓、フィールドワーク研究の新しい発表のスタイルとして注目されている。

マルガサリ(ガムラン)
 1998年に誕生したグループで、大阪府豊能町のスタジオ「スペース天」を本拠としている。ジャワの伝統音楽と新たな創作を本格的に追求する団体として注目をあつめ、猪熊弦一郎現代美術館(丸亀市)、ジーベックホール(神戸市)、アサヒビール(東京)、文化の家(愛知県長久手町)、ザ・フェニックスホール(大阪市)、いずみホール(大阪市)、碧水ホール(滋賀県水口町)など、全国各地で演奏活動を行っている。野村誠、北浦恒人、エイスマ(オランダ)、フッド(アメリカ)、アスモロ(インドネシア)、スボウォ(同)らがマルガサリに新作を寄せる。インドネシア国立芸術大学と提携し、舞踊劇『千の産屋』他の共同作品を生む。現在は楽舞劇『桃太郎』を制作中で、全5場が2005年に完成予定。2003年に初のCD『ガムランの現在 Vol.1』(いずみホール演奏会のライブ録音)をリリース。障害のある人たちとのコラボレーションにも意欲的に取り組む。メンバーは20名、代表は中川真。音楽顧問はシスワディ(インドネシア芸大教官)。

ウィヤンタリ(舞踊) Wiyantari
 1996年にインドネシア国立芸術大学伝統舞踊科を卒業。シスワ・アモン・ブクソ・コンクール(1996)やジョグジャカルタ演劇フェスティヴァル(1998)などで最優秀などの賞を数多く受ける、ジョクジャカルタの中堅を代表する女性舞踊家、舞踊演出家。アクト・コウベのメンバーとしてフランスでも公演。2000年より日本に在住。

佐久間新(舞踊)
 1995年から1999年まで、インドネシア政府給費留学生としてインドネシア国立芸術大学の伝統舞踊科に留学し、その研鑽の成果がジャワで高く評価され、現地の様々な舞踊公演に依頼されて出演。ジョクジャカルタのクラトン(王宮)の嘱託舞踊家として、クラトン主催公演にも多く出演。また、オリジナルな活動として伝統的な技法を用いた創作シリーズ(クタワン形式の楽曲を使用)を開始。マルガサリとジョクジャカルタのプジョクスマン舞踊劇団に所属。舞踊教室「リンタン・シシッ」を日本で主宰する。

シスワディ・ダルモスマルト(演奏)Siswadi Darmosumarto
 1959年インドネシア、ジョクジャカルタの近郊スレマン生まれ。1987年にインドネシア国立芸術大学(ISI)の伝統音楽(ガムラン)科を卒業、1987年から母校の専任講師となり、教育、演奏活動に携わる。同校の修士課程を修了。ジャワのトップクラスの音楽家として、これまでフィンランド、ドイツ、ユーゴスラヴィア、USA、日本などへの演奏旅行に参加。特にルバブ(胡弓)の演奏には定評がある。1999年、2003年に来日。マルガサリ演奏顧問。
野村誠(作曲)
1968年名古屋生まれ。8歳の頃、自発的に作曲を始める。CDブック「路上日記」 (ペヨトル工房)、CDに「Intermezzo」(エアプレーンレーベル)、「せみ」(Steinhand)など。作曲作品に、「だるまさん作曲中」(2001:ピアノと管弦楽)、「つみき」(箏2重奏)など多数。
なかでも「踊れ!ベートーヴェン」、ピアニスト向井山朋子の委嘱による作品「たまごをもって家出する」は有名。
2003年、アサヒビール芸術賞、JCC ART AWARDS(96年)、NEW ARTISTS AUDITION 91(SONY MUSIC ENTERTAINMENT)グランプリ(91年)などを受賞。2003年にはGroningen Jazz Festival(オランダ)での演奏、Ikon Gallery (イギリス)での新作発表、山口情報芸術センター(山口)でのオーケストラコンサー トなどの活動の他、碧水ホールでも「音楽ノ未来・野村誠の世界」ワークショップとコンサート、ガムラン楽舞劇「桃太郎」(マルガサリと共作)を上演した。

林加奈(音楽) 
1973年東京生まれ。音楽家/画家 こどもの頃から歌が大好きだったが、家族から「あなた音痴ね」と言われ、歌は長く 中断。ようやく立ち直った後、東京芸術大学大学院(油画)修了。個展に「うにこの お葬式」、「平安のハナナガ」(ギャラリーはたなか・大阪)など。 1998年に鍵盤ハーモニカオーケストラ「P-ブロッ」のメンバーとなり、音楽家 としての活動も開始。鍵盤ハーモニカのほかに、様々なおもちゃを演奏する。 これまでに、釧路芸術館(釧路)、いずみホール(大阪)、山口情報芸術センター (山口)、Hayward Gallery(イギリス)などで演奏している。 ワークショップに、「絵本カーニバル」(コルトンプラザ・千葉)、「AKIMAHEN」 (Maison Folie・フランス)など。 作曲作品に、「いかにしてカレー」「犬が行く」など。

ローフィット・イブラヒム(演奏)Rofit Ibrahim
1979年インドネシアジョグジャカルタ近郊スレマン生まれ。2004年3月インドネシア国立芸術大学を卒業し、ガムラン演奏者としてジョグジャカルタを中心に幅広い演奏活動を行う、将来を期待された若手演奏家。ジョグジャカルタの王宮プロパクアラマンガムラン演奏者。ISI舞踊団のメンバーとして2003年フィンランド公演。初来日。

魚谷尚代(「桃太郎」役) 
 劇団OBTなどで演劇活動を行う。創作ミュージカル「俺とお前の日常」(2004)の作曲を担当。大阪芸大でガムランを中川真に学ぶ。大阪芸術大学音楽学科演奏研究コース研究生。

きょん(「ダンゴ」「鬼」役)
京都の大学で建築を学ぶかたわら、ニュージーランドのマオリ族の踊り「ポイ」や独自のダンスで身体表現を追求中。2004年2月よりマルガサリとのコラボレーションを始める。

手塚千尋(デジュリドゥ他)
横浜出身。二年前にデジュリドゥに出会い独学で学び、 現在クラブイベント等でライブ活動を行っている。2004年2月よりマルガサリとのコラボレーションを始める。

水谷由美子(衣裳デザイン)
産官学連携事業「やまぐち文化発信ショップナルナセバ」の運営をリードし、大学院サテライト研究室の活動が文系分野の産学連携活動として注目される。衣装デザイナーとして各種パフォーミングアーツの衣装を担当するほか、コスチュームプランナーとして、日本・フィンランド双方における産学連携交流を実施。ファッション展「Wrapping the Body」の企画・開催(2004年、京都、山口、東京)。

岡部泰民(衣裳制作)
やまぐち県民文化祭のメインミュージカル「地球へ・・」(ルネッサ長門)、「Dancing Angels」(山口県教育会館)の衣装製作。ルネサンス・山口のファッションショー、クリスマスファッションショーなどのスタッフとして参加。ジャパン・ファッションデザインコンテスト・イン・山口の実行委員長を務め地域文化・産業の活性化を支援。現在、ブルーウエイ株式会社取締役。日本モデリスト協会会員。
ファッションビジネス学会会員。

入江幸江(衣裳制作)
2003年に山口からファッションを通して地域文化を発信することを目的に設立された(有)ナルナセバの代表取締役およびデザイナー。2003年第8回インターナショナルファッションフェア(横浜市)にて、デニム素材でニット作品を制作して発表。マリメッコ(株)や東レ(株)とのコラボレーション・プロジェクトに参加。

永冨真子(衣裳制作)
第4回ジャパンファッションデザインコンテストinやまぐちにて、優秀賞受賞。(有)ナルナセバ デザイナー。入江とともに、大内文化に基づく商品開発や、様々な舞台衣装のデザイン・製作等を行なっている。また、マリメッコ(株)や東レ(株)とのコラボレーション・プロジェクトにも参加。

●『桃太郎』第2場「成長」
台本

第1回:2002年7月27日(京都市 成安造形短大)
第2回:2002年8月4日(奈良市 氷室神社)
第3回:2003年9月14日(水口町 碧水ホール)


じじ:田植えの次第〜

女が1列に並び、「タナム・パディ(田植えの儀式)」。歌いながら「タナム・パディ」を3回やったのち、ひとりひとりと列から離れ、拝殿内の各所で彫像のようにポーズ(向きはバラバラに)。「タナム・パディ」は総計で6回くらい。

蛙の音声。雨の手拍子。村人2が雨に気づく。みんな口々に「雨や、雨や」といいながら、逃げてガムランに走り込む。雷(クンダン)を合図に「セミ」(音楽)を始める。セミが1周したら、じじとばばが、それぞれ上手・下手から登場。じじ、正面を見わたし、驚きの表情。

じじ:見事じゃ、見事な稔りじゃ。今年は太郎が「おんだまつり」の口開きをしたせいか、稲が元気よう実って豊作じゃ。
ばば:はいはい、よかった、よかった。
じじ:ひぐらしが鳴き初めると、稲刈りの季節じゃの。
ばば:はいはい、よかった、よかった。
じじ:お前、聞こえとるのか?
ばば:はいはい、よかった、よかった。
じじ:困ったことじゃのう。ところで、稲刈りっちゅうの、インドネシア語でなんていうか知ってるか?
ばば:知らん、知らん。
じじ:お前、聞こえとるやないか・・。ポトン・パディじゃ。
ばば:ポトン・パディ?
じじ:ポットン
ばば:パディ
じじ:ポッ
ばば:トン
じじ:パ
ばば:ディ

農民が口々に「ポトン・パディ、ポトン・パディ・・」と言って、正面から登場。じじ、ばば、リズムをとりながら退場。4種類(いーね、ふつう、ラテン、みちお)のポトン・パディ。「みちお」を3回終えたら、盆踊りに移行(音楽)。

ここにありしは河童の声と 水の音清らかに 蛙もないていたかしら
ここにかようは太郎と花子 いつも2人は目を交わす 実りをさそう夏の風
ここに広がる田んぼの先に 赤い夕陽に寺の鐘 金に輝くこの稲穂

盆踊り(収穫の秋祭り)が盛り上がっていったときに、鬼の来襲(音楽)。正面前から。

鬼:ぐわー、ぐるぐるぐるぐるー、ぐわーぐわー。
農民:きゃー、きゃー

村人は少しは抵抗するけれど、鬼は暴れまくり、家は壊すわ、木はなぎ倒すわ、作物は抜いて振り回すわ、さんざんの狼藉を働く。一段落して鬼は酒を飲んで、へべれけになる。鬼が花子に気づく。つかまえようとする鬼、逃げる花子。しかし、とうとう花子は鬼につかまり、抱きかかえられて正面から退場(音楽)。

桃太郎:うあー。じいさまもばあさまも、むらのみんなもちりじりになって、ひっくりかえってる。(倒れているばばに気づく)あっ、ばばぁ、ばばぁ、どうしたんや、大丈夫か? 稲ちりじり、ばばぁぼろぼろ・・・鬼め、あんまりや!! あれっ、花子がおらへん。どうしたんやろ?

テーマ曲2回したのち、「花子は鬼にさらわれた(歌)」(3回繰り返す)。桃太郎は正面前から退場して門を走り出る。しかし、がっくりと戻ってきて、舞台にのぼる直前に、

桃太郎:逃げ足の早いやつだ。村を襲って、田畑荒らして、その上花ちゃんまでさらっていってしまった。

桃太郎は舞台に戻る。

桃太郎:もう我慢ならん。鬼を成敗する。
村人3:やめとき、やめとき。辛抱したらええんや。太郎が行ってもかないわせん。
桃太郎:いやっ、行きます・・てゆーたかて、今のオラでは鬼には到底かなわへん。せや、今日より、鬼退治のためのコンセントレーション及びマッスルトレーニングを、我の日課とする!!!(桃太郎のテーマ音楽)

桃太郎は激しくトレーニングをした後、正面から退出。
テーマ音楽終わる。

じじ、上手から登場(音楽)。

じじ:やぁやぁみなさん、こんにちは・・・。桃から生まれた太郎も早や10歳になった。わしらに子供がなかったから、ばばぁも大喜びじゃ。毎日せっせとうまいもん作りよるから、太郎はみるみる大きくなった。大人に負けんくらいじゃ。それに、よう働くんじゃ。(一呼吸おいて)お〜 、さむ。いまは2月。この間、新年を迎えたばかりじゃが、今年もイネがよう稔るよう、カミさんにお願いせにゃならんな。お田植えまつりじゃ、お田植えまつりを始めよう・・あ、来た来た。

村人が「願い候じゃ、願い候じゃ」と口々に言いながら、しずしずと1列で出てくる(正面から)。2列に整然とすわる。

じじ:どうじゃ、今年は太郎、お前が口開きの役をやらんか。大役じゃが、これを済ますと1人前の村人になれる。分かったな? 
太郎:ハイ、わかりましたー、じいさま。若輩ながら精一杯、勤めさせてもらいます。
じじ:(畏まって)カミさま、これより「願い候の儀」を、かしこみかしこみ、奉り申し候。
桃太郎:すずめの難を逃れまして、立派に育ってくれはった苗にまずは感謝ーゆうことで、よろしゅうお願いします。田んぼの大敵ゆーたら、そら、かんばつや。減水期には力合わせて昼夜を問わず、稲の成長、見守っていくことにいたします。
続いて、村人が様々な願いをたてる。(願い候の儀)

上手から、「牛」を連れた村人(男)が「田起こしの儀〜 」といいながら入場。桃太郎もそれについて歩く。村人が口々に「牛や、牛や・・」といいながら、両サイドに分かれる。(田作りの儀)

牛:モー、モー
男:やれ、よう働けよ、働けよ。立派な田んぼを作って、豊作になるようにな。

この儀礼のプロセスは、「田耕」「代かき(スキで耕す)」「(へら棒による)田ならし」など。男と牛は田作りに励む。そのコンビに最初は農民はおとなしく見ているが、やがて、牛を囃し出す。桃太郎、スキを見て花子にプレゼント。

村人1:今日の牛は誰かの?
村人2:牧屋の新作やで。

やがて、みんなの囃子声に乗せられて、牛の踊り(音楽)。踊りながら、牛とマッチャンらは下手から退場。

「ガムラン」ってなに?

 ガムランはインドネシアやその周辺の民族音楽の一つで、青銅のゴングやシロフォンのような青銅琴などの打楽器を中心に構成されている器楽合奏です。また、それに加わる声楽や舞踊もガムランを構成する大切な要素とされます。
 バリ島のものは踊りや演奏の華麗なこと、ジャワ島のものはそれらの優美なことで知られています。
 豊かな音域と音色、特色のある音楽理論は世界中の人々の心をとらえ、現代の著名な作曲家達も、ヨーロッパのオーケストラの地平を越え得るものとして、多くの作品を書いています。
 碧水ホールでは2001年9月にマルガサリ(代表中川真)のコンサートを開催、2002年春にジャワガムランフルセットを保有、7月にはその演奏を楽しみながら、新しい共同の方法と音楽の地平を探るグループ「ティルト クンチョノ」をスタートさせました。2004年2月の「ティルトクンチョノはじめての演奏会」では、アメリカの現代音楽の作曲家ルー・ハリソンの「ヴァイオリンとチェロとガムランのための二重協奏曲」を演奏しています。
 碧水ホールではすでに、西洋のオーケストラを扱う「サザナミ記念アンサンブル」が「こどもも大人もはじめての人も」というキャッチフレーズで2000年6月にスタートしていますが、この活動と好対照の、 碧水ホールの特色を示すものとなるでしょう。
(文/中村道男 碧水ホール館長)

碧水ホールのガムランチーム
    ●参加者募集中
ティルト クンチョノ
 2002年7月発足、碧水ホールの保有するジャワガムランフルセットの名前、また、その楽器で練習をしているグループの名前です。
 ティルトは「水」、 クンチョノは「金のきらめき」。「さざ波」のイメージをジャワに伝えて命名されたものです。
 誰でも参加できます。子どもも参加出来ます。
 活動を通じて地域に多様な音楽文化や、異文化体験の機会を創り出すことを目的としています。伝統的な楽曲のほか、現代の作品や創作にもとりくみ、西洋音楽とはことなったしくみの音楽を体験できます。
 練習日は毎週水曜日午後7時ごろから。
 指導 中川真 マルガサリ
 名誉顧問 スニョト(インドネシア国立芸術大学)
 詳しくは碧水ホール(担当中村 0748-63-2006)まで。
 ホームページとe-メール
http://www.jungle.or.jp/sazanami/gamelan/sazanami@jungle.or.jp

【活動の場所・日】 碧水ホールで毎週水曜日(月3回)夜6時30分から9時30分
【受講料】4000円(月額・月3回程度・グループレッスン)
碧水ホール 滋賀県甲賀郡水口町水口5671 (〒528-0005)■JR草津線貴生川駅から近江鉄道に乗り換えて一駅、水口城南すぐ ■電話 0748-63-2006
(2004年10月から住所は滋賀県甲賀市水口町水口5671/郵便番号・電話は変更無し)



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