ガムランコンサート『千の産屋』パンフレット/滋賀県水口町碧水ホールにおけるガムランプロジェクト ガムランコンサート『千の産屋』パンフレット 2002.9.14
最新 2002.10.7


その2 『ジャワにて』
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サロヨさんのガムラン工房で

 その工房のたたずまいに私は違和感を覚えなかった。なつかしくさえあった。多分インドネシア語で三人は話している。中身はわからないけれど、なんだか穏やかな時間だ。煉瓦積みの工房は中世のマニュファクチュアみたいだ。


 碧水ホールの為に造ったガムランについての、コメントをサプトノさんから頂きましたので、それをここに言っておきます。

 このガムランの特徴は二つあります。一つは編成、もう一つは置く台ですね。
 ランチャと言いますけども、その台に特徴があります。まず編成の方なんですが、サロン類が非常に多くなってます。それから特にサロンプキンという楽器が2セットある。これほどの編成をもっているガムランは現在のところ、日本にはありません。特にサロンプキンが2セットあるというのは、ソロのマンクヌガラン王宮にあるガムランと同じ形編成で、そのための特殊な演奏方法もあります。 これについては日本の様々なグループはその演奏方法を学習したことはありません。 サロンをそれほど多くしたのは、サロンが比較的初心者を対象とした楽器であって、より多くの人がガムランに親しめるようにということです。サロンを演奏をする機会が多くなるように工夫されているということです。
 次にランチャの方ですが、彫刻の部分に工夫がこらされています。とてもクオリティの高い彫刻がされているのです。 ガムランの楽器のこのランチャ彫刻というのは単に装飾というふうにバカにできなくて、この装飾部分、つまり彫刻が素晴らしければガムランにもより一層力というかパワーが与えられる。つまり極端に言うと、何の彫刻も無ければ、そのガムランは何のパワーも無いというようなものなので、大変重要です。
  また、楽器の材料、これは銅と錫を使って青銅を造るわけですけど、この材料は、銅3、鈴1という割合で造っていくわけなんですが、その割合を非常に厳密にしないと、例えば、クンプールだとかゴングだとかは、いい音がしない。 つまりバチのあたるコブを造る為には、それくらいの割合でないといい形にはならない。ところが、サロンとかグンデルの方は、形を造るのは簡単なので、ともすれば材料を少しごまかして、より安くあげるという方法もあるわけですが、サロヨさんの所ではそんなことはしないで、ゴングだとかクンプールと全く同じ割合でもってサロン類を造っているので、いい音がするのです。
  それから、コブの話のつづきですが、コブを造る技術というのは非常に難しいのですが、サロヨさんの所でも、特にボナンのコブにういて様々な研究をおこなっています。音が良く鳴らない時には、楽器の下に大きな木の葉っぱを入れて響きを作ったりとか、そういうような事をおこなって調整するわけですけども、そのような経験を通じてどのような形をすれば一番いい音になるのかということを研究してきました。その結果、いまでは、サロヨ氏のボナンは非常に良い音が鳴ります。いい音っていうのはいい形からうまれる。サロヨ氏の楽器は非常に良い形をしていると思われます。
 サロヨ氏の研究熱心さを表すエピソードをひとつ。 クラトンの中に非常に素晴らしい楽器がたくさんあるんですけれども、クラトンの中に入って、その楽器を研究してるのはサロヨ氏ひとりだけです。そのへんに研究熱心さが表れてると思います。したがって、クラトンがゴング製造を依頼するときは今ではサロヨ氏にしている、という事なんです。

  それから、演奏会場のことですが、以前、中川が海岸の浜辺で演奏した時に非常に良い音がしたと、ガムランがいい音がしたんで、その事をサプトノ氏に話して、砂とどういう関係がるのかとか訊ねたんですが、サプトノさんは、ガムランはプンドポと言う場所がまず第一の友人であると、第2として野外であると言っています。
 日本のようなコンサートホールでやるときの一番の問題は、なんといっても舞台の木の床ですね。木の衝撃音をなんとかなくすように努力しなくちゃいけない。それから、天井が低い場合は、床にカーペットをひくなりして、音の拡散をふさがないといけない。できればアリーナ形式で、ガムランをホールの床に直接置いて、客席を取っ払い、お客さんも床に座って、それを聞くというのが一番良いのではないか。 特に、天井が高すぎても低くすぎても良くないんで、そのへんは上手くやらなくちゃいけない。碧水ホールのような規模だったら、そのような困難さはわりと少ないのではないか。適切な規模ではないかと思われます。

この話をテープレコーダに語った人:中川真
話を聴いた人:サプトノ(写真左) 水口ガムランセットの設計・監修をした人
話題に出てくる人:サロヨ(写真右)ソロのガムラン工房の親方
写真を撮った人:中村道男
ディクテート協力:Jプランニング





二日目の朝食


 スクランブルエッグとベーコンをたべた。インドネシアの人が、日本人にヨーロッパ式のサービスを提供している。ホテルだからあたりまえなのかもしれないが何か不思議だ。その不思議のおかげで、わたしは異国でスクランブルエッグがたべられる。世界標準ということだろうか。その席に、中川さんがインドネシアに来ていることを知ったシスワディさんが来た。
 インドネシアの人にしか理解できない感情や、表現、私たちには越えることの出来ない部分ガムランの中にはあるのだろうか。


 次にシスワディさんのお話を紹介します。 質問としては、日本人がガムランをしていくとき、ジャワ人のように音楽をとらえる、とらえるきる事が出来るのかどうか、ジャワ人にしか理解できない部分があるのではないか、ということなんですが、それに対しては、シスワディ氏はきっぱりと、そういうことはないと言いました。
 ジャワ人も同じなんですが、3段階学習の過程があって、ウィロゴ、ウイロモ、そしてウィロソ。その3段階を経て初めてガムランなり舞踊の本質に到達すると。  ウィロゴというのはテクニックですね。肉体的にはフィジカルな面。そしてイロモでそれをいかに上手く運用するかという技術も必要である。ウィロソでは、ガムランの様々な本質っていうか内面的なものを演奏で表現することになります。ウィロソのロソはラサっていう意味なんですけどもね、感情だとかセンスですね、まぁそういったものを内面性も含めて表現できる、そういう状況になっていく。その3段階を経て上手くなっていくわけですけども、それについては、外国人でもジャワ人でも全く一緒であると。
 外国の人の場合は、その環境が、インドネシアの文化とは全く違うというような事 もあって、困難さが大きいけれど、それは学習に時間がかかるということに現れるだけであって、最終的な成果については別にそこに困難さはないというふうにシスワディさんは考えています。  それからもう一つ面白いエピソードがあったんですが、シスワディさんのお友達でアレックスっていうアメリカ人がジャワに居るんですけども、その人の話をしました。このアレックスというのは様々な国の民族音楽を学習してきて取り組んできて、才能のあるミュージシャンなんですけども、最後にジャワのガムランにいきついて、ジャワのガムランが世界で一番面白いと。そのおもしろさが何処にあるのかと言うと、一言で言えば、大ベテランと初心者が同時に演奏できるというその懐の深さなんですね。非常に難しい楽器と、非常に簡単な楽器が同居していると、従って、様々な人が、あるいは技術が一緒でないような人も含めて同時に演奏ができるという、その空間、あるいは隙間っていうか、隙間の広さっていうか、そういう空きの広さが非常に面白いのではないか。ということをシスワディさんは話していて、それがガムランの特色であると言っていました。

この文をテープレコーダに語った人:中川真(写真右)
話した人:シスワディ(写真左)
         インドネシア国立芸術大学 マルガ・サリ音楽顧問
写真を撮った人:中村道男
ディクテート協力:Jプランニング




ガムラン教室ご案内
【趣 旨】
 ガムランの演奏を楽しみながら、豊かで寛い心をはぐくみ、地域に多様な音楽文化の環境や国際交流、他文化理解の機会を創造し、次世代に伝えること。
【活動内容】
 ガムラン演奏グループの設立をめざして、ジャワ・ガムラン教室をはじめます。まずは、みんなで演奏やその音楽的仕組みや舞踊をならいましょう。主にジャワ舞踊をやってみようと言う人も求めます。
【参加資格】
 どなたでも。プロ、アマチュアを問いません。子どもも参加できます。
【指導】マルガ・サリのメンバー
  監修 中川真
   (大阪市立大学教授 マルガ・サリ代表)
【活動の場所・日】 
 碧水ホールで毎週水曜日
 (月3回程度)
 夜6時30分から9時
【受講料】
4000円(月額・月3回程度・グループレッスン)
【主催】水口ガムランプロジェクト

【練習日】
9月13,14(コンサート),18,25日
10月9,16,30日 11月6,13,27日




島根県八雲村、熊野神社『庭火祭』のこと

●島根県八雲村、熊野神社『庭火祭』
 特に新月の闇が選ばれていたのかもしれない。2002年9月7日、島根県八雲村、熊野神社でひらかれた『庭火祭』は、小雨という条件にもまけず千人を超える人たちが、篝火に映えるガムランコンサートを楽しんだ。
 この『庭火祭』は、古くは『延喜式』にもみられる「庭火祭」...夜間に庭火を焚いて神楽を奉納する祭典....にちなんだもので、毎年、世界の民族音楽をとりあげながら今年で第10回を迎えたとのこと、実行委員会が組織され、人口7千人の村に、例年ならば2千人が集うビッグイベントである。会場の熊野神社は、この地方の神社に見られる巨大な注連縄、豊かな森の樹々とともに、神社や地域を支える熱い想いのスタッフ達の活躍がある。
 碧水ホールでも薪能を担当したことがあって少しは分かる。野外イベントはとても大変だ。ガムランの音もやはりスピーカーなどを使って音を整える必要がある。庭火祭とはいえ、照明は必要だ。舞台は本殿正面の階段を旨く利用して仮設されている。  コードのコネクタ類は雨に備えてビニールでカバーされている。相当の数だ。照明のための発電器が持ち込まれている。舞台は通り過ぎる雨に、何度もシートで覆う作業が行われた。客席はシートに御座敷というスタイルだが、雨に濡らさないように本番直前まで準備できない。文化財の中で火を使うので、万一にそなえて小型消防ポンプまで準備されていた。
 篝火がそこここに焚かれている。人々が闇のせまる参道を集まってくる様子は、なんだか、なつかしい光景だった。
 催しが終わってすぐ帰路についたのは、翌日に、地元のお寺で開かれる『薬師如来虫干会』のためだ。田舎のお寺ながら、昼間には『お薬師さん』のご開帳の儀式があり、夜には盆踊りなども開かれにぎやかになる。『庭火祭』の中にいて、ガムランの音を聞きながら何か懐かしく感じられたのは、子どものころから慣れ親しんだこの光景と似ていたからかも知れない。

●プンドボ
 ガムランの公演はジャワでは通常プンドボとよばれる建物(1ページに写真)で行われる。この建物には、熱帯地方ということもあるのだろう、寄せ棟の屋根に、大理石やタイルの床で、壁はない。日本の能舞台(今ではこの舞台がホール内に作られることになってしまったが)や、神社の神楽殿に似ている。
 水口のガムランセットを設計したサプトノ氏は、ガムランはプンドポと言う場所がまず第一の友人であると、第2として野外であると言っている。コンサートホールでやる場合は、木の床、天井の高さ、ホールそのものの響き具合などによって、色々工夫が必要となる。

●滋賀県水口町、碧水ホール
 『ガムランコンサート』
 9月14日の碧水ホールでは、ホールの中でのコンサートとなるが、八雲村でのものと同じプログラムである。多目的ホールの特徴を活かした舞台づくりが計画されている。ワヤン(影絵)で表現される部分があり、照明などの工夫もぜひご覧いただきたい。
 今年の7月から発足した水口ガムラン教室のメンバーや、碧水ホールボランティアスタッフも裏方として活躍してくれるのは心強い。
 沢山の観客を得て、楽しいコンサートとなることを願っている。
(中村道男・碧水ホール館長)

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