ガムランコンサート『ガムランによって何が可能なのか』パンフレット/滋賀県水口町碧水ホールにおけるガムランプロジェクト ガムランコンサート『ガムランによって何が可能なのか』パンフレット 2001.9.29
最新 2002.10.7


トップページへもどる


(2001年9月29日に碧水ホールで開催された「ガムランコンサート『ガムランによって何が可能なのか』」のパンフレットです。)





■ガムランによって何が可能なのか
 本公演では、ジャワのガムランの伝統的な表現、そして新たな創造の可能性、このふたつをあますことなく伝えたい、という欲張りな目標をもっています。そのために、3つのワークショップと1つのコンサートという形式になりました。ワークショップAでは、実際にガムランに触れていただき、簡単な曲の手ほどきをします。ワークショップBでは、ジャワ的な体の動かし方を学びます。また、舞踊と一体となった衣裳の着付けにも挑戦します。ワークショップCでは、ガムラン的リズムや音色を使って、自由に遊んでみます。コンサートは、これまた3部に分かれています。これらを通して、「ガムランによって何が可能なのか」ということを楽しく探ってゆきます。
 ジャワの伝統音楽(古典音楽)であるカラウィタンは固定されたものではなく、刻々と変化しています。旋律は変わりませんが、リアルタイムで演奏家が相互に刺激し合うことによって、演奏法が進化していきます。従って、少し古いテープを完璧に模倣したとしても、「博物館」的な演奏になってしまうでしょう。常に「現在」の息吹を投入すること、それが命です。本公演においては、ジャワからトップレヴェルの演奏家であるアグス・スセノ氏を共演者として招き、古典音楽の「最前線」を聴いてもらうとともに、舞踊と組み合わせて、伝統の世界の幅や奥行きを感じていただきたいと思います。
 他方、新しい創作の方はどうか? ガムランの新作は、ジャワだけでなく世界中で常に生まれています。アメリカではミュージカル風に、またイギリスではシェークスピアの劇伴に・・というように。それぞれの文化と合体しながらインドネシアという枠を超え、ガムランは独自の文化を築き始めています。わたしたちもまた、日本ならではの作品を生み出したく、『桃太郎』を題材に採り上げました。


■コンサート・プログラム


(第1部)
1.マジュムック 
 (ペロッグ音階リモ調)
 Gendhing Majemuk, pelog pathet lima

2.ロロ・カリブブル 
 (スレンドロ音階ソンゴ調)
 Gendhing Ela-Ela Kalibeber, slendro pathet sanga

(第2部)
3.プディアストゥティ 
 (ペロッグ音階バラン調)
 Tari Sekar Pudyastuti, "Sri Katon Mataram dan Mugi Rahayu", pelog barang

4.クロノ・トペン・アルス 
 (ペロッグ音階バラン調)
 Tari Klana Topeng Alus, "Sumyar", pelog barang

休憩

(第3部)
5.楽舞劇『桃太郎』より〜第1幕第1場「桃太郎の誕生」(音楽監修 野村誠)
 The 1st scene of the Drama "The Peach Boy".


■プログラム・ノート


第1部 青銅の燦めき
 ジャワのガムランには、ソロとジョグジャカルタという2つの代表的な様式があり、マルガサリは両様式を演奏する珍しい団体で、その特質を生かしたいと思っています。ガムランは金属打楽器が中心であり、バリのガムランの日本での浸透もあって、「力強い」イメージがもたれていますが、ジャワ・ガムランの特色は逆で、繊細さ、柔らかさが特徴です。「静かなトランス」といえるかもしれません。時が経つにつれて、いつしか引き込まれ、エクスタシーに達するという感じ。特にソロ様式はそういう点で洗練の極みです。
 最初の2曲はともにソロ様式の作品です。第1曲の「マジュムック」(15分)は結婚披露宴の際に演奏されることが多く、緩やかに始まり、徐々に力強くなり、最後は圧倒的なクライマックスで終わるという、直線的でダイナミックな音楽です。徐々にテンポが速くなっていくところを、クンダン(太鼓)の刻むリズムと一緒に感じてください。
 第2曲「ロロ・カリブブル」(20分)は対照的に、くねくねと入り組んだ複雑なテクスチュアをもっています。女性の独唱に、ルバブ、ガンバン、グンデルといった繊細な楽器群が織りなし、美しい旋律を生み出します。ひょっとしたら気持ちよくなって眠くなるかもしれません。

第2部 宇宙のダンス

 ガムランは、基本的にコラボレーションの芸能です。舞踊、演劇、影絵などと協同することにより、いっそう力を発揮します。こんどはジョグジャカルタ風の音楽で、ジョグジャカルタ様式の舞踊を観ていただきましょう。
 名振付師、サスミントディプロ(1929〜1996)の作品です。「プディアストゥティ」(1975)は女性の優雅さ、華やかさがテーマになっています。特に手や足の指先、首の微妙な動き、それを支える腰の安定感などが見どころです。ジャワの舞踊は太鼓のパターンと完全にシンクロしており、そのあたりも聴きどころです。
 「クロノ・トペン・アルス」(1976)は、アルスな仮面舞踊という意味です。アルス(優雅さ、典雅さ)は男性舞踊のひとつの様式の名前であると同時に、ジャワ人の理想とする人間のあり方でもあります。クールで洗練されています。王とか貴族のあるべき姿です。仮面舞踊は、人間を超越した存在あるいは何者かが取り憑いた状態を表しています。従って、クールではなくホットです。アルスとトペンという、ふたつの相反する性格のものがひとつの舞踊に中でせめぎ合っている点が、この舞踊の見どころです。

第3部 ガムラン・シアター

 天才音楽家、野村誠との出会い。それがマルガサリに新しいタイプの表現を生み出しました。「踊れ! ベートーヴェン」(1996)、「せみ」(2001)に続く、ガムラン第3作です。野村氏の音楽的アイデアに対し、マルガサリは美術や演技で応えます。で、なぜ『桃太郎』なのか?
 初めてジャワのガムラン舞踊劇『ラーマーヤナ』を観たときのことです。上演は3時間ぐらいだからストーリーは単純化されていました。そこで、桃太郎に出会ったのです。ラーマ王子が、ラクササ(大鬼)に囚われているシータ姫を救い出す話。日本の『桃太郎』のなかには、宝物とともに姫を救出するというヴァリエーションも多いから、よく似ているなぁ、と。そして、ドイツで歌劇『魔笛』を観たときも。タミーノ(男)がパミーナ(女)を救出するために受ける試練の数々は、ラーマをも上回るけれど、物語の骨格は全く同じです。つまり、世界の人々は『桃太郎』のようなストーリーをすでに持っているのです。こういう共通の地平から出発するなら、海外へ発信するのも容易なのではないかと思っています。
 『桃太郎』参照劇は、桃太郎への視野を大きく広げてくれます。桃太郎の行跡の数々は民俗学的解釈によって理解されていますが、日本的な解釈に閉じ込めないで、世界に遍在する普遍的モデルのひとりとして、桃太郎という人物を見つめてみたいと思っています。

 最後になりましたが、みなさんの目の前にあるガムラン楽器をご覧下さい。木の枠の部分に、実に渋くて美しい彩色がしてあります。これは世界でただひとつ、マルガサリだけの楽器彩色です。漆作家の亀谷彩さんと、彼女の主宰するグループ「クラクラ」の面々が、2年ほどの歳月をかけて、ゆっくりとすすめてくれた漆塗りです。どうぞ目の方もお楽しみください。
(文 中川真・マルガサリ代表)

■出演

ガムラン: 家高洋 石田敦子 岡田靖子 
岡田翼 阪口ミミ 佐々木宏実 
四方夕香 坪井ゆゆ 東山真奈美 
中川真 西真奈美 西岡美緒 
野村誠 羽田美葉 林加奈 林朋子 
本間妙圭 本間直樹 松田明子 
松宮浩 山岸佳奈江
舞踊:ウィヤンタリ(プログラム3) 
佐久間新(プログラム4)

特別出演:アグス・スセノ

美術:西真奈美、坪井優子、松田明子
美術協力:豊田玲子
衣裳デザイン:水谷由美子
衣裳制作:岡部泰民
漆制作:亀谷彩+クラクラ


■企画・監修  中川 真


■ワークショップ

A.ガムラン体験
B.ジャワ・ガムランの舞踊と衣装体験
C.ガムランのリズム体験

ナビゲート:中川真 野村誠 佐久間新 ウィヤンタリ
      +マルガ・サリ



■主催
水口町教育委員会・碧水ホール

滋賀県甲賀郡水口町水口5671 〒528-0005
tel 0748-63-2006 fax 63-0752
UTL http://www.town.minakuchi.shiga.jp/hekisuihall/
e-mail hekisuih@town.minakuchi.shiga.jp
ご意見ご感想をお寄せ下さい。


■プロフィール


マルガ・サリ(ガムラン) Marga Sari

1998年に誕生したグループで、大阪府北部の山間地にある寒天工場を改装したスタジオ「スペース天」を本拠としている。伝統音楽と新たな創作、伝統と現代を本格的に追求する団体として注目をあつめ、すでに猪熊弦一郎現代美術館(丸亀市)、みやこメッセ(京都市)、大阪市国際交流センター(大阪市)、ジーベックホール(神戸市)、中丹文化会館(綾部市)、アサヒビール(東京)、文化の家(愛知県長久手町)、ザ・フェニックスホール(大阪市)など、各地から演奏依頼がくる。
野村誠のほか、北浦恒人、エイスマ(オランダ)、マセダ(フィリピン)、フッド(アメリカ)、アスモロ(インドネシア)らがマルガ・サリのために新作を寄せている。2000年にはオランダのFM放送でライブ録音が放送され、好評を博す。インドネシア国立芸術大学と提携し、頻繁に交流を行っている。メンバーは20名、代表は中川真(大阪市大大学院教授)。音楽顧問はシスワディ(インドネシア芸大教官)。

中川 真(代表) Nakagawa Shin

 東南アジアの民族音楽、サウンドスケープ、サウンドアートを研究する。ジャワ音楽をシスワディほかに師事。1980年代よりガムラングループを主宰し、カナダ、インドネシアへの海外公演を成功させる。著書『平安京 音の宇宙』(平凡社 1992)でサントリー学芸賞、京都音楽賞、小泉文夫音楽賞を受賞。実験的な音楽を紹介する京都国際現代音楽フォーラムのディレクターとしての活動により、京都府文化賞を受賞。他に『小さな音風景へ』(時事通信社 1997)、『音は風にのって』(平凡社 1997)、『民族音楽学概論』(インドネシア・オボール出版 2000)、『宇宙の響き』(ドイツ・メルフェ出版 2000)などの著書がある。2001年8-9期のNHKテレビ人間講座を担当。大阪市大大学院文学研究科教授。インドネシア国立芸術大学客員教授。1951年奈良県生まれ。


佐久間新(舞踊) Sakuma Shin

 1995年から1999年まで、インドネシア政府給費留学生としてインドネシア国立芸術大学の伝統舞踊科に留学し、その研鑽の成果はジャワでも高く評価され、現地の様々な舞踊公演に出演した。1998年にはプジョクスマン舞踊劇団(ジョグジャカルタ)の沖縄公演をコーディネートして成功させる。クラトン(王宮)の嘱託舞踊家として、クラトン主催公演にも多く出演。また、オリジナルな活動として、伝統的な技法を用いた創作シリーズ(クタワン形式の楽曲を使用)を開始している。マルガ・サリのメンバーであると同時に、ジョグジャカルタのプジョクスマン舞踊劇団に所属、いまなおジャワの舞台にしばしば立つ、将来を嘱望される若手舞踊家である。

ウィヤンタリ(舞踊) Wiyantari 

 1996年にインドネシア国立芸術大学伝統舞踊科を卒業。シスワ・アモン・ブクソ・コンクール(1996)やジョグジャカルタ演劇フェスティヴァル(1998)などで最優秀などの賞を数多く受ける。2000年にはアクト・コウベのメンバーとして、フランスのマルセイユなどで舞踊公演。現地のアーティストとのコラボレーションも試み、高い評価を受ける。ジョグジャカルタの若手を代表する女性舞踊家、舞踊演出家で、現在大阪府在住。

アグス・スセノ(シトゥルほか) Agus Suseno

 1956年中部ジャワのクラテンに生まれる。スラカルタ(ソロ)の高等音楽院ガムラン科を卒業後、ジョグジャカルタの国立インドネシア芸術大学ガムラン科に入学、首席で卒業(1987)。ガジャマダ大学歴史学科にて修士学位を得る(人文学修士)。1984年よりインドネシア国立芸術大学の教員スタッフとなり、1997年より教授(副学科長を兼任)、今日に至る。研究論文に『ボンデットにおけるガンバンの奏法』(1985)、『ジョグジャカルタにおける記譜法』(1996)、『ガムラン・スカテン』(1999)他多数。作曲作品に『キドゥル海のジャンティ』(1984)、『ウリップ・ウラパン』(1988)、『ロロ・ジョングラン』(2000)他多数。ガムラン演奏家として国内のみならず、海外でも活躍中。1995年にはタイ(バンコク)へ、1998年には日本(福岡)へ演奏旅行をおこなう。ジャワの中堅を代表する音楽家である。

野村誠(作曲) Nomura Makoto

 1968年名古屋生まれ。京都大学理学部卒業。ヨーク大学音楽学部留学。鍵盤ハーモニカによる路上演奏の傍ら、多くの作曲作品を世界各地で演奏する。1991年 New Artist Audition 91 グランプリ(ソニーミュージックエンターテインメント)、1996年 JCC Art Awards(現代音楽部門)優秀賞を受賞。1992〜95年、エピックソニー・レコードと専属契約し、『Bird Chase』他、多数のCDをリリース。ガムラングループとともに京都、東京、ジャカルタ、バンドゥン、ジョグジャカルタ他へ演奏旅行をおこなう。1999年高齢者施設にて「お年寄りとの共同作曲」をおこなう。鍵盤ハーモニカオーケストラ「P-ブロッ」リーダー。作品に『でしでしでし』(1995 吹奏楽とロックバンド)『つん、こいつめ』(1998 笙、箏、三絃、太棹、打物)ほか。著書に『路上日記』(1999 ペヨトル書房)がある。京都女子大学専任講師。

水谷由美子(衣裳デザイン) Mizutani Yumiko

 「時遊劇場・平安絵巻十二単衣」(京都会館第二ホール)、歌舞組曲「瑠璃いろの煌・風にのって」(山口市民会館大ホール)などオペラ・舞踊等の衣装を多数手掛ける。ファッションショー「サビエルの道」(山口サビエル記念聖堂・1998)と「ファッション・エクスプレスC571ー未来への旅」(JR山口線SL小郡ー津和野間・2000)の企画・演出・服飾デザインにより山口メセナ倶楽部「第4回・6回メセナ大賞」受賞。永久保存作品「時空を越えた花嫁・花婿」(中国・モンゴル自治州立博物館)。やまぐち・きらら博「いきいきエコパーク」(2001/7〜9)の制服デザイン。衣装作品「東方の風」をパリにて発表(2001)。やまぐち文化発信ショップにて国際交流や地域文化を発想源とする商品開発研究を行う。現在、山口県立大学教授。

岡部泰民(衣裳制作) Okabe Yasutami

 やまぐち県民文化祭のメインミュージカル「地球へ・・」(ルネッサ長門)、「Dancing Angels」(山口県教育会館)の衣装製作やルネサンス・山口のファッションショーおよびやまぐち文化発信ショップNaruNaxevaにおける共同研究開発等を水谷由美子氏と行う。第2回ジャパン・ファッションデザインコンテスト・イン・山口の実行委員長を務め地域文化・産業の活性化を支援。現在、ブルーウエイ株式会社取締役。日本モデリスト協会会員。

このページのはじめへ
トップページへ