氷室神社ガムラン奉納公演〜ひびきの杜〜 氷室神社ガムラン奉納公演〜ひびきの杜〜 桃太郎誕生
最新 2002.11.29


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(2002年8月4日に奈良市氷室神社で上演されたガムラン楽劇『桃太郎誕生』」の解説と台本です。)





● ガムラン音楽の本場であるインドネシアでは、ガムランは単体で演奏されることは 少なく、舞踊、演劇、影絵など、他のジャンルとの共演で登場することが普通です。 つまり基本的にコラボレーションの音楽といっていいのです。そういった伝統は古く からあり、ラーマーヤナやマハーバーラタといったインドのヒンドゥー叙事詩が上演 されてきました。また様々な物語や現代的な事件を素材とした、新しい作品も数多く 生まれています。
 マルガサリにおいても、インドネシアの古典音楽を演奏するだけではなく、ガムラ ンのもつコラボレーションの面白さを、私たちの身近な素材を用いて、新たに作るこ とを試みています。そのひとつが『桃太郎』です。
 『桃太郎』は誰でも知っているストーリーです。とてもシンプルな内容ですが、シ ンプルであるがゆえに、様々な解釈を投入することができます。例えば、桃太郎はな ぜ鬼ヶ島に退治に行ったのか?
 そこに鬼がいるから?
 鬼に恨みがあるから?
 誰 かにそそのかされて行っただけ?
 私たちならでは答えを見いだしたいと思っていま す。民話のなかには、日常的ともいえる多くの知恵が潜んでおり、汲めども尽きぬ泉 であると思います。誰でも知っているストーリーだけに、あらためて説明する必要も ありません。いきなり物語に入り込めるという利点をもっています。それが、インド ネシアの音楽と日本の民話といいう違和感を取り除きます。
 また、『桃太郎』は東南アジアに広く受容されている『ラーマーヤナ』の物語と非 常に似ています。加えて、モーツアルトのオペラ『魔笛』とも共通点がある。将来に は世界公演ツアーをもくろんでいる私たちとしては、こういった共通の地平をもって いる物語でやることに大きな意義があります。
 制作には、音楽監督として野村誠氏を迎えました。彼のユニークな音楽づくりは定 評があり、『桃太郎』作曲においてもほとんど楽譜を使用せず、メンバーとの討論の 形で作られてゆきます。現在は全5場のうち、第2場まで完成しました。毎年、1場 ずつふやしてゆき、完成まで5年かかる予定です。


公演データ
氷室神社ガムラン奉納公演
ひびきの杜
〜桃太郎誕生〜

出演
マルガ・サリ(ガムラン)
佐久間新、ウィヤンタリ(ジャワ舞踊)
野村誠(音楽監督)

2002.8.4(Sun)
昼の部 2:30 Open 3:00 Start
夜の部 6:30 Open 7:00 Start

御奉納協賛金 一般2500円 学生2000円
※御奉納協賛金は氷室神社にご寄進させていただきます。

主催:奈良小劇場設立準備委員会
美術制作:奥 むつみ
協力:氷室神社 (株)尾田組 マルガ・サリ



● 楽舞劇『桃太郎』(2002年8月4日版)

第1場 桃の漂着
 ホイホイホイホイ・・。じじが友だち2人とともに山に柴刈りに来る。じじ、正面 後ろから登場、中央へ小走りで。じじの友1、2も登場、舞台の両脇に座る。ガムラ ン板付き(あるいは、竹打ち入場)。じじ、かなりテンション高く。
じじ:あーしんど、しんど。やっと山に着いたわ。遠いんでな、足は痛い、腰は痛い、 腹は減りよる。さぁて、どうしたものか・・。お、弁当を食べよ。・・・あかん、あ かん、ばあさんに怒られるわ。仕事を先に済ませにゃな。わしは山で柴を刈るのが仕 事じゃ。仕事の前には山のカミに祈ることになっとる。山のカミはえらい別嬪でのぅ。 祈りましょう。さぁーて、東を見ればー、ひつつき山、福のカミー、南を見れば、みののみの丘、福のカミー、西を見れば、にきにき谷、福のカミー、北を見れば、きららの川、福のカミー、東西南北八万里に恵みを与えたまえー。
(この間、2人のじじ はつっこみを入れる)・・ああ、しんど。こりゃ、柴を刈るよりしんどいわ。さぁ、 さて、柴を刈ろうかの。(柴を刈り始める)・・・よ、助けてくれよ。
じじ友(1)(2):はいよ。
 友、舞台中央へ。3人でリズミカルに柴を刈り始める。やがて、ガムランにも伝染 し、竹の音具で柴刈りのリズムに呼応する。
(音楽)「レゲエ」  この間、音楽が2回中断し、桃が漂着してきた旨の語りが入る。
(音楽)「シシババ」
 3人のじいさんの踊りが盛り上がる。竹筒を持ってダンス。やがて3人、下手に引 く。 (音楽)「やまでら」→「こっしんはな」で夕暮れを迎える。
  朝。川の流れる情景。舞台中央で、ばばが洗濯をしている。わらしの会話が始まる。
わらし(1):洗ってあげましょうか?
わらし(2):いらない。
わらし(1):すもももももももものうち
わらし(2):すもももももももものうち
ばば:洗ってもろたら、ええんちゃうのん。
わらし(1):洗ってあげましょうか?
ばば:どこから来たん?
わらし(2):いらない
ばば:そんあん、いらんとかゆわんと。
わらし(1):洗ってあげましょうか?
ばば:すももや、ももや、ゆうてから、ほんま。
わらし(2):いいえ
ばば:ふわー、眠いわ。・・・・・ねむい、ねむい・・。
 ばば、眠たいそぶりをしながら上手に倒れ込む。
 中央から、カミ1入場。カウベルの音。
(音楽)「カミダンス」
 上手からカミ2、3登場。音楽はゆっくり、徐々に楽器を増やし、速くなる。和太 鼓が入ったところから、ドンブラコダンスに移行。
カミ:ドンブラコ、ドンブラコ・・・
全員:ドンブラコ、ドンブラコ・・・
音楽はいっそう激しくなる。演奏者もドンブラコを叫ぶ。クライマックスを迎え、カ ミ1は退場。カミ2,3は「桃の旗」を持って激しく振り回す。やがて、それが中央 でとまると、桃の精が現れて優雅に踊る。じじとばばは拝殿のなかに待機。
(音楽)静かな音楽
桃の精、消える。やがて、両方から差し出されていた旗が細かく震え始める。そして、 それがふたつに割れる。
→赤ん坊の誕生。じじ、ばば、驚き喜ぶ。ばばが赤ん坊をか かえて退場する仕草。じじも退場。
(音楽)「太郎誕生」→かなり長く


第2場 桃太郎誕生
第1場と同じく、じじいが出てくる(氷室神社では正面後ろから)
じじ:やぁやぁみなさん、あれから十年経ちました。わしはまだまだ元気じゃが、ば ばぁはちょっと弱ってのぅ、可哀想じゃ、可哀想じゃ。(一息入れて)ところで、太 郎は大きうなったで。びっくりするほどじゃ。よう喰うんじゃ、毎日、毎日。米びつ がカラになる。1年経つとガバッ、また1年経つとガバッ・・。もうこんな大きな男 の子になった。大人以上に働きよるから、ほんまによう助かるで〜。(一呼吸おいて) お〜、さむ。いまは2月。この間、新年を迎えたばかりじゃが、今年もイネがよう稔 るよう、カミさんにお願いせにゃならんな。あ、来た来た。
農民が「申し候じゃ、申し候じゃ」と口々に言いながら、1列で出てくる(正面後ろ から)。2列に整然とすわる。
じじ:ほう、みな集まったか。これから「お田植えまつり」をするのじゃが、どうじゃ 、今年は太郎、お前が口開きの役をやらんか。大役じゃが、これを済ますと1人前の 村人になるからの。分かったな?
太郎:ハイ、わかりましたー、じいさま。若輩ながら精一杯、勤めさせてもらいます。
じじ:(畏まって)カミさま、これより「申し候の儀」を、かしこみかしこみ、奉り 申し候。
じじはガムランの場所へ引っ込む。
○申し候の儀
1.すずめの難を逃れまして、立派に育ってくれはった苗にまずは感謝ーゆうことで、 よろしゅうお願いします。
2.田んぼの大敵ゆーたら そら かんばつや。減水期には力合わせて昼夜を問わず、 稲の成長、見守っていくことにいたします。
3.〜 西、坪井、松田、田渕・・・
○田作りの儀
「申し候」が盛り上がっていくと、正面後ろから「牛」の登場。
 牛につくのは、マッ チャン、ツバサ。農民、口々に「牛や、牛や・・」といいながら、両サイドに分かれ る。
牛:モー、モー
マッチャン:やれ、よう働けよ、働けよ。立派な田んぼを作って、豊作になるように な。
 プロセスは、「田耕」「代かき(スキで耕す)」「(へら棒による)田ならし」など。 牛とマッチャンは田作りに励む。そのコンビに最初は農民はおとなしく見ているが、 やがて、牛を囃し出す。
西:今日の牛は誰かの?
石田:牧屋の新作やで。 ほか、なるべくたくさん。
やがて、みんなの囃子声に乗せられて、牛の踊り(M)。
 踊りながら、牛とマッチャ ンらは正面後ろから退場。村人(家高)「田植えの次第〜」によって、1列に並び、 「タナム・パディ」。
○田植えの儀
「タナム・パディ」を5回やったのち、ひとりひとりと列から離れ、拝殿内の各所で ポーズ。「タナム・パディ」は総計で10回近く。歌は途中から。
○ 蛙 雨の手拍子。田渕が雨に気づき、逃げ始める(拝殿からガムランに走り込む) ほか:雨や、雨や・・・
雨から逃げながら、次々と正面後ろから退場。ガムランに待機。ボナンは雷数回を合 図に「セミ」(M)を始める。全員が「カナカナ・・・」をしている間に、じじとば ばが正面後ろから登場。
じじ:今年は太郎が「おんだまつり」の口開きをしたせいか、稲が元気よう実って豊 作じゃ。
ばば:はいはい、よかった、よかった。
じじ:ひぐらしが鳴き初めると、稲刈りの季節じゃの。
ばば:はいはい、よかった、よかった。
じじ:お前、聞こえとるのか?
ばば:はいはい、よかった、よかった。
じじ:困ったことじゃのう。ところで、稲刈りっちゅうの、インドネシア語でなんて いうか知ってるか?
ばば:知らん、知らん。
じじ:お前、聞こえとるやないか・・。ポトン・パディじゃ。
ばば:ポトン・パディ?
農民が口々に「ポトン・パディ、ポトン・パディ・・」と言って、正面後ろから登場。 4種類のポトン・パディ。野村誠が集団の中に入って指示。
盆踊りに移行(M) 盆踊り(収穫の秋祭り)が盛り上がっていったときに、鬼の来襲(M)。正面前から。
鬼:ぐわー、ぐるぐるぐるぐるー、ぐわーぐわー。
農民:きゃー、きゃー
農民は少しは抵抗するけれど、鬼は暴れまくり、家は壊すわ、木はなぎ倒すわ、作物 は抜いて振り回すわ、さんざんの狼藉を働く。一段落して鬼は酒を飲んで、へべれけ になる。すると、花子が現れ(夢のなかで)ファンタスティックに(M)。ツバサが 鬼を打つと、鬼は我に返り、再び激しい音楽と鬼の狼藉。鬼は花子をかかえて、正面 前から退場。門の外へ。
鬼:うわっはっはっはー・・・
太郎:うあー。じいさまもばあさまも、むらのみんなもちりじりになって、ひっくり かえってる。稲もぼろぼろや。鬼がぶぁーめちゃくちゃにして、あ、ごっそー・・・・ 全部もってっいってしもた。オラ、いままでこれほど、途方にくれたことないで。鬼 め、あんまりや!!
テーマ曲x2 + 花子は鬼にさらわれた×3 
  テーマ曲が鳴ったら、太郎は正面前から退場して門を走り出る。しかし、がっくりと 戻ってきて、渡り場で、
太郎:村を襲って、田畑荒らして、その上花ちゃんまでさらっていってしまった。
太郎は拝殿に戻る。
太郎:もう我慢ならん。鬼を成敗する。
農民:やめとき、やめとき。辛抱したらええんや。太郎が行ってもかないわせん。
太郎:いやっ、行きます・・てゆーたかて、今のオラでは鬼には到底かなわへん。せ や、今日より、鬼退治のためのコンセントレーション及びマッスルトレーニングを、 我の日課とする!!!
テーマ曲
太郎は激しくトレーニングをした後、前から退出。じじ、後ろから登場。
じじ:おやおや、太郎は吉備団子も持たんで、飛び出して行ったで。これで太郎はやっ と桃太郎になりよったんや。さてさて、桃太郎の運命やいかに。それは、またのお楽 しみということで、本日はこれまで、これまで〜。(拍子木を打つ)
→テーマ曲
その間に、じじ、ばば、太郎、花子、鬼が舞台へ。テーマ曲が終わったら、残りの全 員も拝殿に走ってあがって礼。


提供:中川真



(公演の案内・主催者のコメント)
奈良小劇場設立準備委員会は、奈良における伝統と新しい時代の文化・芸術・芸能の融合及び国際交流のための拠点として、また特に青少年の芸術文化の創造と情報の発信並びに自由な活動と交流の場として「小劇場」を建設し、管理・運営することを目的に活動しています。
 今回の「ひびきの杜〜桃太郎誕生〜」では、芸能発祥の地・奈良において日本とジャワ双方の芸能文化が融合した舞台の面白さをたのしんで戴ければと思います。
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