天沢 退二郎(あまざわ たいじろう)


 光と闇の闘いをテーマにした「光車よ、まわれ!」は、子供達の冒険を通して人間の心の奥にある闇の部分が幻想的に描かれています。ルミという少女がでてくるので「オレンジ党と黒い釜」以下3冊も同じシリーズだと思いこんでいたのですが、「魔の沼」の著書紹介のページで、<オレンジ党>の物語は、長編三部作<三つの魔法>だということがわかりました。また、一冊ずつ物語が完結しているので、独立して読むことも出来ます。
「闇の中のオレンジ」を含め、現在品切れ・絶版で手に入らないので、図書館でどうぞ。

【「魔の沼」あとがき より】
  <オレンジ党>の起源に興味を持たれた読者は、童話集『闇の中のオレンジ』中の同題の作品を読まれたい。
     ※ 読んでみました!

  また、第一の部分には姿を現さなかった田久保京志少年については、中編「夜の道」(雑誌「現在」2号・
  単行本未収録)が語ってくれるはずである。
     ※ 『ねぎ坊主畑の妖精たちの物語』(1994.6.15発行)に収録されていました。

 詩人、天沢退二郎さんをご存じの方の中には、児童文学も書いていたのかと驚かれる方も多いかもしれません。
翻訳、宮沢賢治の研究/監修、中島みゆき研究など幅広く活躍されている方のようです。
「骨董商」「乙姫様」は未読ですが、面白そうです。

1

光車よ,まわれ!

(筑摩書房)

小学校6年生の教室から怪異は始まります。まっ黒な頭巾をかぶった、ばけもののような3人の大男。驚いたのは一郎だけで、一瞬後には、雨でずぶぬれになったクラスメートに戻っていました。現実の世界との逆転を狙うウラの世界と戦うために3つの光車を探す仲間たちと、すべての謎の鍵をにぎる不思議な老人...。

 第一章 怪異(あやかし)のはじまり
       あらし−三人の大男−水たまりの黒い手
 第二章 <光車>をさがせ
       ふしぎな電話機−夜の図書館−<光車>と地霊文字

目次を少し見ただけで、思わず引き込まれてしまうでしょう? 下校途中の水たまりにうつる、まっ黒けでまんまるな顔と、水の中に引きずりこもうとする手がとても印象に残り、しばらくたつと、また読んでみたくなる世界です。
2



 闇の中のオレンジ

  (筑摩書房)

長編三部作<三つの魔法>で活躍する人物が次々と登場し、外伝的な楽しみ方ができる12篇の短編集。人の死が当然のように語られ、かなりショックな描写もあるが、林マリさんのイラストが大胆な構図でページを飾っているのも魅力的。

赤い凧 ナメクジナマズに襲われる田久保京志と妹のカスミ
ちいさな魔女 妹のカスミを守るため森にかくまうチサ
秋祭り いなくなった妹のチサ、カスミを探す兄の京志
まわりみち よろいを着た大男たちにおそわれる竜
みかんの王子 海辺で不思議な人達に王子だと迎えられる宏
燃える石 「源氏湯」でトランプの王さまのような化け物に襲われる種夫
眠り姫 チサを助けに「たぼ穴」に入る飯野トリ子、高宮次郎、種夫
海辺で会った少女 不思議な列車で海に行き、龍子と出逢う竜
三人のお母さん 真夜中に通りへ出たサヨコは、不思議な路地へ導かれる
<<グーン>>の黒い釜 木霊の集いでグーンのお釜が現れたことを知るキクエ
グーンの黒い森 さらわれたたかしを探しにグーンのドカン谷へ行く石橋みどりと恭一
闇の中のオレンジ 金竜丸の金船長といっしょに『物言う泉』を探す由木道也と李エルザ
3

 長編三部作

 <三つの魔法>(筑摩書房)

 第一部 オレンジ党と黒い釜

 第二部 魔の沼

 第三部 オレンジ党,海へ


 <黒い魔法>と<古い魔法>。邪悪な二つの力に対抗し、戦う少年少女達と、それを助ける不思議な、ときの老人と<時の魔法>。

 母方の古いイングランドの妖精魔法の力と、ことばの源のなぞを伝える朝鮮半島からの父の血を引くという李エルザ。不思議な魔力を持つ品々を操り、戦うこの少女を中心に、土神のじいさん,黒い沼の王,グーンの遺跡などなど、独特の響きを持つ登場人物と場所が引き起こす不気味な出来事に、ありふれたススキまでもが、あやしい化け物に思えてくる独特の魅力を持った世界です。

4

 ねぎ坊主畑の妖精たちの物語

   (筑摩書房)
土地の精霊や畑の妖精たちの不思議な物語集
   「ねぎ坊主ばなし」から, びわとヒヨドリ, 夜の道, 土神の夢,
   杉の梢に火がともるとき, 人形川, グーンの黒い地図


 書籍検索してみたら、1994年に出版されていたこの中・短編集を見つけました。久しぶりに味わった天沢さんの物語は、やはり謎めいて暗く幻想的な魅力に満ちていました。妖精、土地神、木の精、魔法...。
天沢さんの作品にはよく、リーダーとして女の子が登場します。古き魔法を守る家に生まれ、謎めいた家族の助けで主人公の男の子を導きます。そして、人間界とは別に存在する黒い邪悪なモノ,世界との闘いには終わりは示されていません。身近などこかで、また何かが起こっているのではないかと思わせる不思議な世界です。
5

 杉の梢に火がともるとき
   (福音館書店)
「子どもの館」1979年8月号収載
6
 荒野の太陽 (福音館書店)  アンドレ・ドーテル 著 フランスの男の子が、ひょんな事から紛れ込んだ知らない村と、不思議な少女との出会い。現実と非現実の世界が混ざり合ったような幻想的な物語です。
7
 シチリアを征服したクマ王国の物
    (福音館書店)
 ディーノ・ブッツァーティ作・画 世界傑作童話シリーズの一冊です。クマのイラストも魅力的で、大人向けの絵物語という感じです。
8
 骨董商 上・下

 (河出書房新社)
  アンリ・ボスコ 著 悪の出現、そして誘惑。天涯の孤児となったバルーディエルはマルセイユの骨董店で不思議な人物たちに出会う。自らの名の秘密、魔法の指輪の謎。孤独な魂の冒険を描いた、秘境的小説。(河出書房新社HPの書籍紹介文より)
9
 乙姫様 (青土社) 詩集
10
 日本児童文学
 1991年6月号(文溪堂)
ファンタジー論へのZIG-ZAG
 「山海評判記」「風の又三郎」の示唆するもの